2021年12月9日(木)
2022年、世界は、コロナからの復興を果たさなければならない。分断と孤立が進む中、人々が集い、新しい発想で何かを始めなければならない。長く、苦しい道のりだが、できれば、皆で前向きな気持ちで乗り切りたい。
関西演劇界では、何ができるのか?
関西演劇界は、これまでもたびたび大きな困難に見舞われてきた。例えば2000年代初頭の相次ぐ劇場閉鎖。それに伴う観客減少などなど。そのたびに、アーティスト達が環境整備に向け、奔走してこられた。創作活動とお仕事だけでお忙しいのに、そこに「活動」が加わり、どれほど大変だったことか。長年関西演劇と並走し、すべて目撃してきた私は、そのたびに胸が痛かった。
今回は、できる限りアーティストには創作活動にご専念頂き、アーティストを取り巻く環境活性化の仕事に従事する演劇関係者達が集い、何かを始められないか?―と、まず思った。
「喪失」の続いた関西演劇界
2000年代以降、喪失したもの。劇場、稽古場が減った。劇場が減ると、劇場主催の演劇祭も減り、それに伴う演劇賞も減った。つまりは、自治体の助成金申請に必要な「受賞歴」につながるものが減った。かつては、東京の劇場などが、リージョナルシアターの東京公演に積極的で、関西の若い劇団の東京公演も、良い条件で実施できたが、今はそれもなくなった。総合的な情報誌がなくなり、公演情報を一望にできる媒体が減り、演劇に興味を持ってくれる新しいお客様の誘致が難しくなった。演劇評論誌が減り、同時に演劇評論家が減った。関西制作のテレビ番組が減り、放送界と演劇界とのコンタクトが減った。
そして、このコロナ禍だ。名作が生まれているのに、十分に普及していない。
……も~~、やだ! 関西演劇のアーティストは、今とても層が厚く、良い状況だ。もっと、もっと関西アーティストの魅力を、新しい発想で広めることはできないものか。
新たな何かを「誕生」させられないか?
「喪失」から「誕生」へ
「あるアイデア」を思いついた。コンセプトは「関西演劇を広める、広げる」。とりあえず私のわずかな出資で始める拙案=非営利のweb事業だが、26枚つづりの長い企画書を、劇場のプロデューサー、演劇評論家、演劇研究者、演劇教育者、放送関係者、演劇祭主催者、文化支援者などにお送りした。送付時期は2021年8月末から約1週間。感染者急拡大の真っ只中だ。その時は、まだ私は開始時期を迷っていた。皆様、今を乗り切ることで精一杯のご多忙の中におられる。すぐにはご返事いただけまい。開始は1年遅らせるか?
するとなんと、ほとんどの方が、すぐに「呼びかけ人に入って、協力します」とご返事下さった(中には劇場とアーティスト活動を兼務されている方もおられるが、この企画では、劇場やスタッフのお立場でご参加頂く)。呼びかけ人にお名前のない方々の中にも、協力を申し出て下さる方々が多数おられる。ご自身がご多忙で大変なのに、それでも関西のアーティストを積極的に支援したい、と思ってくださる方々が、こんなにもたくさんいらっしゃる。
お金がなくても、これだけの方々の叡智があれば、できる!
当初から相談していた、web編集を多数手がける、クエストルーム株式会社代表取締役の石原卓氏に「今からの準備で、来年スタートは、可能か?」と問うと、「やりましょー!」とおっしゃってくれた。そこで、決断した。9月8日に上記の方々に、来年スタートする旨のキックオフ文書を送り、そのあとは不眠不休、怒涛の日々で準備し、今日のこの日を迎えた。
企画内容は「関西えんげき大賞」の設立と、
関西の演劇情報網羅を目指した「関西えんげきサイト」の開設
賞については、私はすでに太田耕人さんと「関西現代演劇俳優賞」をささやかな私費で実施し、24年目に入るが、私は、賞、つまり作品に順位をつけることに興味があるわけではない。賞は「仕掛け」である。今回の「仕掛け」は、関西の演劇の魅力を発信する関係者の層を広げること。それによって、関西の演劇を広めること。そして、新しいお客様を劇場に誘うこと。
コロナ前のように、お客様に劇場に戻ってきていただく。それは、当然の目標。さらに、コロナ前より、たくさんのお客様に、劇場に来ていただき、感動して頂く。それが、まずは目標である。成功すれば、さらに次のステージへと発展させていきたい。
―内容は、関西えんげき大賞の欄に記載していますが、簡単にご説明させて頂きますー
「関西えんげき大賞」
これは、年間ベストステージ10作品を表彰、授賞式をYouTube配信し、関西の劇団の舞台をまだご覧になったことのない方にも、少しでもご興味を持っていただくことを目的にしている。
授賞作品を選ぶのは、少数の選考委員ではない。優秀賞10作を選ぶ選考委員(8人)は、長年演劇を見ている評論家や研究者が中心だが、その中から第1位を選ぶのは、投票委員(30~40人。選考委員も参加)と、事前にご登録頂いた観客の投票である。
授賞式では、10作の表彰の後、総合投票第1位の作品と、観客投票で最も人気の高かった作品が発表される。
ここに「仕掛け」がある。投票委員には、演劇記者など、すでに劇場通いをしておられる方もいらっしゃるが、アナウンサーや若手の演劇研究者など、新たな演劇発信者がおられる。企画を進めるうち、演劇に興味をお持ちのアナウンサー、放送関係者がたくさんいらっしゃることを知った。興味はあるが、関西演劇について総合的に情報が入らず、とりあえず知っている劇団だけご覧になっていた、という方もおられる。勿体ない! 今回は「あと少し、関西の劇団の公演を見る範囲を広げて頂けないか?」とお願いして、加わって頂いた。新しいお客様です。
今後も、発信力のある方々にコンタクトを取り続け、毎年じわじわと、新しいお客様を劇場にお誘い続けたいと考えている。
また、受賞作は特定のジャンル、上演地域に偏らないよう、10作を選ぶ選考委員にもできる限り幅広くご覧いただく。
賞ができて、一番腹が立つことは(私なら腹が立つのは)「何故私が選ばれなかった!?」である。そこで「関西えんげきサイト」の登場である。
投票数が少なかったのは、あなたの作品がつまらなかったからではない。情報が行き渡らず、投票する人が見に行けなかったからである。せっかく面白い作品が上演されるのに、そのことに気づかれないのは、勿体ない。授賞は、本番の前から始まっている。これまでも劇団の方々は、広報活動にご尽力されていたと思うが、新たな方法をお使いいただきたい。そこに「関西えんげきサイト」を加えて頂ければ幸甚である。
2022年1月の舞台から対象で、第1回授賞式は2023年2月である。
「関西えんげきサイト」
関西演劇情報を網羅し、これまでご覧になっていなかった劇団のことも知って頂き、お客様をさらに劇場に誘うことを、目標の一つにしている。
ただ、掲載に、一部有料のところもある。授賞式は年1回なので、九鬼の私費だけで経費は賄えるが、サイトはどんどん更新していきたいので、経費が私費だけでは賄えない。
関西のすべての劇団公演と、関西発のプロデュース公演の情報を網羅させて頂く目標は、前述の通り。公演情報を本番2カ月前から掲載し、併せて、内容紹介の宣伝文を劇団に自由に書いて頂く(文字数制限の範囲で)。掲載料として3000円頂く(最初に頂いたら、そのまま2カ月間掲載)。
掲載を望まれなくても(ここに情報を掲載されなくても)、授賞対象ではある。ただ、前述の通り、これから関西演劇の観劇数を増やそうとしてくださっている投票委員は、このサイトで情報を得られることが多い。新しいお客様に、わかりやすく情報をお伝えするため、掲載をお考えいただけると大変うれしいです。ご自身の作品の魅力を、ご自身で存分に語ってください。
サイトには、ほかに劇評やアーティスト・インタビューも掲載する。ここにも「仕掛け」がある。劇評執筆者には、新しい世代の優秀な演劇研究者も含まれる。演劇評論家は、人一倍演劇を勉強し、これからも研究し続ける「覚悟」が必要である。関西には、優秀な演劇研究者がたくさんおられることも、今回知ることができた。そういう方々に、この機会に、さらに関西演劇をたくさんご覧いただき、論述して頂く。アーティスト・インタビューは、若手・中堅のライターさん達にお願いする。ライターさんはたくさんいらっしゃるが、これまで演劇を書く機会がなく、ほかのジャンルの取材をしておられた方も多い。この機会に、演劇もご専門に加えて頂きたい。さらに関西の劇団の観劇を増やしていただけないかと、お願いした。発信者の層を広げたい。
他にも、読み物の新企画を準備中である。
まだ実施までに少し時間はかかるが、飽きずに時々アクセスして頂ければ幸甚です。アクセス数が伸びれば、次の発展につなげられる。伸びなければ、継続自体が困難になる。私を含め、編集部も、その覚悟を持って取り組んでいきます。
「関西えんげきサイト」の編集長は、石原卓氏。九鬼も編集主幹として参加、劇評などの執筆依頼を担当している。九鬼は今、関西演劇の新しい評論家をスカウトしている。
そして、お客様。関西演劇を年間100本近く、あるいはそれ以上、何十年もご覧になっていらっしゃる方々が、少なからずおられることも、今回知った。確かにコロナ禍の中、友達も誘えず、一人で観劇を続けていらっしゃる方々の姿をたびたびお見かけした。なんという大きな力! ぜひ観客投票にご協力いただき、アーティストにエールを送って頂けないだろうか。
大変僭越なことをお書きして恐縮です。私は、何者でもありません。ただの演劇評論家です。本来、陰の人間です。今回も、当初は表に出るつもりはなく、企画立案と事務作業だけしているつもりでしたが、新企画の立ち上げには何かと煩雑なことが持ち上がります。当面は「呼びかけ人代表」として活動し、落ち着いたら、新しい世代に引き継いでいければと考えています。
私も、平和な時代なら、演劇研究と演劇評論だけやっていたと思います。ですが、今は有事です。まずは、環境整備から。立場を超えて、集まりました。
長々と失礼しました。色々書きましたが、平たく言えば、「苦しい時だけど、新しい企画の誕生で、ちょぴっとだけでもワクワクして頂けたら、うれしい」。長年、関西演劇に並走し、発信してきた私の、今の素直な思いです。そうなれるよう、頑張ります。
なにとぞご理解いただき、ご協力いただけますと、幸甚です。
「コロナからの復興企画~関西演劇を広める、広げる」。
本日、船出します。―未来へ!