コロナからの復興企画~関西演劇を広める、広げる

関西えんげき大賞

演技の窓~関西現代演劇俳優賞選考記録~ 第二十五回 関西現代演劇俳優賞

(左から)中川浩三、樫村千晶、趙沙良

大賞受賞

樫村千晶 兵庫県立ピッコロ劇団

4月で劇団に入って20年になります。20年も月日が経ったのか、と私自身びっくりしていますが、その中で、色んな役と巡り会ってきました。
その中でも、直子という役にめぐり合わせてくれた眞山さんには、感謝の気持ちでいっぱいです。また、自分の中でもこんなにのびのびと直子を演じることができたことにびっくりしています。
最初は、不安しかありませんでした。何故なら、桃井かおりさんに当て書きされた本だったので、私にできるかな、という不安しかなかったのですが、弟役の民男をやった原さんに劇団員の中でも信頼を寄せていたので、安心して身を委ねやりとりが出来ました。
劇団代表の岩松さんが書いた『月光のつゝしみ』という戯曲を劇団員の眞山さんが演出したこの舞台で、この賞をいただけたことが、私自身劇団に入って一番嬉しいことです。
これからも、のびのびと自分の信じているものを疑わずに、舞台を続けていけたらな、と思います。本日はどうもありがとうございました。

樫村千晶さんへの祝辞

眞山直則 兵庫県立ピッコロ劇団

樫村さん、この度は受賞おめでとうございます。実は、彼女のことを「樫村さん」と呼ぶと怒られるので、「千晶さん」と呼ばせてください。
千晶さんと関わった、二人の男性の話をします。一人目は岩松さんです。『月光のつゝしみ』の作者である岩松了は、ピッコロ劇団の代表です。かなりくせ者です。彼女は、そんな岩松了の本が好きです。あるいは、岩松さんが好きです。どっちもかもしれません。なので、今回オファーするにあたって、僕はその名前で彼女を口説きました。「岩松さんの本をやるんだ、だから出て欲しい」、出てくれました。岩松さん、ありがとうございます。
そうしたら、上演が終わって彼女からメッセージが届きました。「この戯曲とめぐり合わせてくれてありがとうございます」と、書いてありました。入口にも、出口にも、岩松さんが立っていた、という話です。
二人目の男性は、原竹志くんです。彼女の演じた直子の弟、民男を演じました。二人はすごく仲が悪い、いや、良い。難しいんです。稽古が始まると、ある日、原くんが僕のもとに来て言います。彼は、「千晶」と呼びます。「千晶と芝居ができることが本当に嬉しい」と。・・・千晶さんは、特に僕のところへは来ません。
また別の日に原くんがやって来ます。「上手くいかない。前から分かってはいたけれど、彼女には、こんな欠点がある。僕はどうしたらいい?」と。でも僕にはこう聞こえます。「直子には欠点がある」・・・やっぱり千晶さんは来ません。そんな二人です。ちょっと嫉妬します。そんな二人が出演者みんなと起こした相互作用です。そして、原くんは今日もここに来ています。
千晶さん、あなたがいなくてはできない作品でした。きっとあなたは小さく首を振るのでしょうが、そうなんです。何故なら、先にお話した、二人の男性の話にあるような、大人の俳優である千晶さんが、その中にめちゃくちゃ小さくて、わがままで、愛されたい子供を・・・役者のチアキを飼いならしているからです。演劇らしく、『狂気』と言い換えてもいいかもしれません。そして、その子供を舞台の上で体現することが、いかに難しいか、僕にもちょっとだけわかります。直子は、そんな女性でした。
岩松了から、メッセージを受け取っています。この場をお借りして伝えます。「今日はひな祭りですね、僕のお雛様、千晶、おめでとう」・・・ちょっと酔っぱらっていると思います。俳優って、本当に素晴らしい職業だと思います。九鬼さん、太田さん、ありがとうございました。

大賞受賞

中川浩三 Z system

Z systemの中川浩三でございます。1989年に劇団そとばこまちというところに入団いたしまして、実はその前に1年ほど志垣太郎さんの付き人をやっておりまして、この世界に入って34年になります。こういう賞をいただけるのは、実は初めてです。『背くらべ』というお話がありまして、今回その続編をやらせていただいたのですが、『背くらべ』と同じように、親の望んだ道から外れ、34年。これでいいのか、と悩みながらの34年。何者でもなかった私が、何者かになれたような気がしています。
これに関わっていただいた、作演の岩崎さん、プロデューサーの岡本さん、スタッフの皆様、そして、ご来場いただいたお客様に心から感謝を申し上げます。最後に、うちの劇団員。いつもは舞台上に立っている側が、今回はスタッフとして支えてくれまして、最高の稽古をさせていただきました。森下、古場町、小花、これは、君たちと一緒に取った賞だと思っております。
今後とも微力ながら、関西演劇界に対して恩返しをしていきたいな、と思っております。本日はどうもありがとうございました。

中川浩三さんへの祝辞

岩崎正裕 劇団 太陽族

まず、この賞を25回も運営されている九鬼葉子さん、太田耕人さんに感謝を申し上げます。そして、中川さんおめでとうございます。
この『背くらべ』という作品を作ったのが、2003年ですから、実は2023年は20年目ということになるんですよね。そこで、「続編を書いてくれへんか?」と、中川さんと岡本さんに言われまして、実は正直めちゃくちゃ不安やったんです。何故かというと、最初の『背くらべ』は全国6カ所ぐらい、長崎まで流れて行って、結構評価された作品なんです。で、映画でもそうなんですけど、『2』ってダメなことが多いじゃないですか。そうなったらイカンな、と思いながら。でも、思い返せば『背くらべ』という作品も、中川さんと南さゆりさんの実際のことを取材して書かせていただいたんです。19年経って、中川さん、趙沙良さんが相方なんですけど、取材させてもらったらやっぱり、脚本を作る上でのこれは、というネタがいっぱいありましたね。『続・背くらべ~親ガチャ編』の中川浩三さんが演じたカズヒロ役はね、7割から8割は浩三さんやと思います。そうなんです、ひとつの作品を作るのに、こんなに聞き取りノートを作ったこと今までなかったです。二人の言ったことで、大学ノート半分埋まる、という。それを劇に仕立てながら、という風にやらせていただきました。
印象に残っているエピソードは、やっぱり中川浩三さんって、めちゃくちゃ芝居が好きなんですよ。その分、一つのセリフに納得がいかないと、次に行ってくれない俳優なんですよ。だから一番苦労したのは、沙良さんが子供時代、父親の若いころを演じるときに、要は娘にこれから一緒に暮らしていかれへん、ということを伝えるシーンなんですけど、そこで浩三さんは、かなりの時間をかけました。言える、言えない、で。でも、そんな理想的な稽古って他ではなかなかなくて、やっぱり中川浩三の分身の役柄であるからこそ、彼もここまでの自分の人生の贖罪とまでは言わないけれど、もう一回、娘と向き合ってる、という感覚を大事にされているんだな、ということを思いました。
浩三さんはね、お稽古の途中から「調子エエですわ」って言ってたよね、やっぱり口に出してたら実現するね。そして、このお稽古に参加してたZ systemの若い女優さん方にも、いい経験になったのでは、と思います。浩三さん、これからも頑張って、いい役者として、関西演劇界を牽引していってください。おめでとうございます。

奨励賞受賞

趙沙良

今回、このようなありがたい賞を受賞できて本当に嬉しく思います。『続・背くらべ~親ガチャ編』は、私という人間を丸裸にされた作品でした。私が演じさせていただいた役は、私にとってリアルな女の子過ぎて、正直、何回も目を背けたくなるときもありました。最初台本をいただいたときに、「えー」って、衝撃的すぎて、「どうしよう、どうしよう」って、何回も悩みました。
でも、中川さんと岩崎さんの作品に対して真っ正面からぶつかっている姿を見て、私もここでぶつかっていかないと、この先出会う作品や人に、背中を向けて歳ばっかとっていくのではないかな、とすごく感じました。
お芝居をするときに、できれば噓をつかずに正直な人間でありたいなと、すごく感じさせていただきました。中川さん、岩崎さん、カンパニーの人たち全員に何回も背中を押していただいて、本当に感謝しかありません。賞をいただいたんですけど、私一人の力ではなくて、作品に関わってくれた全員の賞だと思います。本当にありがとうございました。

趙沙良さんへの祝辞

岩崎正裕 劇団𝄌太陽族

二人芝居で二人とも賞がもらえるなんて、なかなかないですよね。すごいと思います。まず、キャスティングの段階で、僕と中川さんと岡本さんの間でピタッと合ったんですよ。この役は趙沙良でいけるんじゃないか、って。その時そんなにこの人のことを知っているわけではなかったんですけど、お稽古で沙良すごいな、と思ったのが、普通26歳の女優が50歳半ばの男の俳優と一緒にやったら物怖じするんですよ。それは、中川さんの「対等の関係で稽古を進めよう」、という考えもあったと思うけど、それにしても物怖じせずよくやったと僕は思いました。普通、二人芝居で逃げ場がなかったら、1日や2日稽古場に来られない日というのがあるものですが、彼女はずっと来ていました。
エピソードで今でも覚えているのが、場面が少しずつ減っていって、子供のシーンから、離婚するその夜の妻と夫のシーンって、ものすごくチェンジしないといけなくて、稽古場で「今日は初めからその別れ話の夜のシーンまで繋げてやってみようよ」って言って、中川さんはヨシッ、って感じで、そのとき、僕らはマスク取って稽古してたんだけど、沙良さんがね、ニコって笑ったんです。あまりにもその微笑みが意味不明過ぎて、「何で笑ったの?」って聞いたら、「嬉しいです」って。これすごくないですか?普通緊張しますよね?そこも、すごい度胸があるな、って。そういう人です。
それと、中川さんも関西の人だから、色々面白い言葉を彼女にぶつけると、謎のダンスを踊り出したりね。スズナリに行ったときかな、僕はタバコを吸うために外出て鉄階段の上から道を見てたら、沙良さんと道の向こう側でパッと目が合って、そのとき謎のダンスをしながら道を渡ってくる、っていうことをやってて。本番前で緊張しているにも関わらず、彼女はのびのびと演技というものに立ち向かえる人なんだな、と思いました。まだ伸びしろだらけだと思いますので、頑張ってください。
中川さん、岡本さん、この企画を立ち上げてくださって、ありがとうございました。沙良さん、おめでとう。

第25回授賞式=2023年3月3日、大阪市のウイングフィールドにて

テープリライト:関下怜