コロナからの復興企画~関西演劇を広める、広げる

関西えんげき大賞

アーティスト・インタビュー “あきらめない、夏”2022 大阪女優の会副代表・金子順子が語る、今、伝えたい言葉。非戦への願い。 VIEW:456 UPDATE 2022.07.25

圧倒的な演技力。関西が誇る俳優の一人、金子順子(コズミックシアター主宰)。新劇出身だが、小劇場の若手・中堅アーティストとも幅広く積極的に交流し、2018年には空の驛舎の『かえりみちの木』(中村ケンシ作・演出)に出演、第21回関西現代演劇俳優賞・女優賞を受賞している。新しい分野にチャレンジし続けるベテラン女優だ。その金子が、関西の演劇人達と長年取り組む、非戦を訴える舞台“あきらめない、夏”が、今夏も開催される。主催は、大阪女優の会。コロナ禍で昨年は上演できなかった分、勉強会を重ね、その中から選択した反戦の詩など、戦争体験者の言葉を中心に構成し、リーディングする。今回は初めて演出家を招かずに女優達で話し合って台本をまとめ、構成し、演出するのも話題。ロシアによるウクライナ軍事侵攻が深刻化する中、この舞台にかけた強い思いを金子順子に聞いた。

アメリカによるイラク攻撃がきっかけで誕生した大阪女優の会

大阪女優の会は、2003年から活動を続けている。代表は河東けい、副代表が金子順子。制作は堀江ひろゆき、会計を佐藤榮子が務める。きっかけは2003年、アメリカによるイラク攻撃と、同時にわが国で進められていた「有事法制」に反対し、平和を願う演劇人達が「イラク攻撃と有事法制に反対する演劇人の会」を立ち上げたことだ。東京の演劇人達の動きに呼応する形で、関西でも演劇人達による集会が開催された。当時はまだ接点の多くなかった関西の新劇界と小劇場演劇界の、多世代に渡る演劇人達が集結した。その話し合いを経て、その年の夏、第1回“あきらめない、夏”と題した「大阪女優の会」公演を実施。『この子たちの夏』(木村光一構成、棚瀬美幸演出)を上演した。その後も毎年、戦争を風化させないための創作活動を継続。毎回有志を募り、20代から80代の新劇、小劇場の演出家や女優、そして時に男優も交え、これまでに約300人の関西の演劇人が参加。今年で第19回を迎える。
“あきらめない、夏”という言葉に込められた思いを、金子は次のように語る。「いろんな意味があります。戦争はずっとあります。ロシアの侵攻も今に始まったことではなく、2014年にはクリミア侵攻がありました。戦争は延々とあります。諦めずに『戦争はしてはいけないんだ』ということを言い続けなければなりません。核兵器も、非人道的であると、否定し続けなければなりません。皆わかっていることだと思います。『してはいけない』と言い続ける意志を持つこと。そして、隠蔽されてきた多くの事実を知り、世界の動向を見詰め、様々な意見を学ぶこと。学び、伝えることを諦めない。演劇の命は『言葉』です。言葉の対極に暴力があります。言葉を大切に伝える力を持ち続けること、そして責任を持つこと。合意形成は確かに難しいです。この活動でも、毎年、いろんなメンバーが集まり、公演に向けて話し合いを続ける中、いろんな異なる意見が出ます。でも、異なることを否定せず、そして、同じ方向をぶれずに見詰め続けることが、大事だと思います」。

大阪女優の会の取り組み

「これまでの公演でも、実際に戦時下を生きた人の言葉をもとに構成してきました。特に子供達の言葉や、死んでいった子供を見詰めた周りの人の言葉を集めて、作品化してきました」。勤労動員に駆り出され被爆死した同級生の足跡を辿った、関千枝子著『広島第二県女二年西組』、こうの史代の漫画『夕凪の街 桜の国』などを原作に上演。また、2020年から2021年にかけては、コロナ禍の中、カミュの小説『ペスト』を原作にリモート配信(小原延之構成・演出)。3時間にわたるリーディングを1年間配信し、話題となった。
近年は、長年隠蔽されてきた戦争関連の資料の精査を進め、作品作りに反映させる取り組みに励んでいる。
活動を通しての反響を問うと、参加した演劇人、観客を問わず「改めて、何があったのかを実感できた、という声が多いです。終わっていないんだ、ということ。皆が、戦争はやってはいけないとわかっている。改めて、表現者がそれを言葉にすることで、力が蘇ります。知らなかったことを知り、理解して頂くことにつながると思います」。

劣化ウラン弾の脅威

最近、特に資料を集め、勉強を重ねている問題は、劣化ウラン弾の脅威についてだ。
「原子爆弾・劣化ウラン弾は、恐ろしい兵器です。人間に絶対使ってはいけない無差別大量殺戮兵器です」。
19年目になる今回の作品では、広島・長崎原爆投下の被災者の実録と、湾岸戦争・イラク戦争における劣化ウラン弾の被害者の言葉を綴る構成を考えている。原作は、御庄博実・石川逸子著『ぼくは小さな灰になって・・・。―あなたは劣化ウランを知っていますか?』など。ウラン産出された村の少年や、被爆した少女など、おもに子供の視点で描かれた詩を朗読する。大人達が、未来ある子供達から何を奪ってしまったのか。胸に迫る言葉に満ちている。
また、今回の公演には「勿論、ロシアのウクライナ軍事侵攻を止める思いがあります。プーチン大統領の核による威嚇が起きている今、何故日本は核兵器禁止条約に批准も署名もできないのか? 核兵器の残虐、惨状、隠蔽を被災者の言葉で綴り、今を生きる私達ができることを見詰め、平和への願いを伝えたいと思います」。

関西演劇界に必要なものとは

このインタビューでは、関西演劇界の懸案と展望を情報共有したいと考え、アーティストが今、何が必要と捉えているかをお聞きすることにしている。劇場や劇場自主事業、演劇賞など様々な喪失が続いた関西演劇界。さらにコロナ禍の打撃で苦境に立たされている。その現状について、金子は次のように語った。
「関西えんげきサイトのアーティスト・インタビューで岩崎正裕さんがおっしゃっていたことと、全く同感です。劇場、公共ホールが必要です。フリースペースでもいい。人の集まれる場所が必要です。公共ホールが主催した企画にアーティストが集まり、発信の場となること。劇場は「広場」です。人が集まり、知り、思考する場所です。新たに見えることがあり、想像力が膨らみ、行動につながります。交流が必要です。それが地域文化の発展につながると思います。文化芸術の権利。そして保護。行政に取り組んで頂きたい課題だと思います」。
さらに「経済が超・優先になるのは、危険だと思います。その行きつく先にあるのが、戦争です。奪う、破壊するしかないのが戦争です」と語った。
未来への希望が見えづらい、現代の混沌とした状況。その中で、私達はまず、何から始めるべきなのだろうか。「たくさんの言葉に触れて、自分で選択する力を持つことが大事です。そのために、大阪女優の会があると思っています。集まって、シンプルに動く。一緒にいるから、生まれるものがある。それが、私達の生きる世界です。シンプルに、楽しまないと、思考も新たな行動も生まれません。まず、集まらなければなりません。人間が人間らしく生きることこそ、大切です」。
膨大な資料、書籍から女優達が選び抜いた、密度の濃い言葉の数々で構成された今回の舞台。タイトルは『もういい だまっているのはいい』。このタイトルは、「原爆詩集」などで知られる峠三吉の『墓標』から引用した言葉である。被爆死した子供達に語り掛けた言葉だ。「君たちよ もういい だまっているのはいい 戦争をおこそうとするおとなたちと 世界中でたたかうために そのつぶらな瞳を輝かせ その澄みとおる声で ワッ! と叫んでとび出してこい」。

(取材・文/九鬼葉子)

“あきらめない、夏”2022 大阪女優の会VOL.19『もういい だまっているのはいい』

■公演日
2022年8月
18日(木)19:00
19日(金)14:30 / 19:00
20日(土)11:00 / 14:30 / 18:00
21日(日)11:00 / 14:30

■会場
未来ワークスタジオ