コロナからの復興企画~関西演劇を広める、広げる

関西えんげき大賞

第一回 関西えんげき大賞受賞作

<優秀作品賞>
  1. 極東退屈道場「クロスロード」
  2. 劇団タルオルム「さいはての鳥たち」
  3. 劇団未来「パレードを待ちながら」
  4. 神戸アートビレッジセンタープロデュース公演 手話裁判劇「テロ」
  5. サファリ・P 「透き間」
  6. 空の驛舎「コクゴのジカン」
  7. ニットキャップシアター「チェーホフも鳥の名前」
  8. BOH to Z Produce 「続・背くらべ ~ 親ガチャ編」
  9. MONO「悪いのは私じゃない」
  10. ルドルフ「ヒロインの仕事」
<最優秀作品賞>
  • MONO「悪いのは私じゃない」
  • 神戸アートビレッジセンタープロデュース公演 手話裁判劇「テロ」
<観客投票ベストワン賞>
  • 神戸アートビレッジセンタープロデュース公演 手話裁判劇「テロ」

第一回 関西えんげき大賞選考経過

九鬼葉子

―2022年12月25日、大阪市天王寺区の一心寺研修会館にて選考委員会開催ー

選考委員会に先立ち、事前に選考委員8名が、2022年の1年間に鑑賞した関西演劇の中から10作品を優秀作品賞として推薦。1年間で10作に絞り込むというところから、各委員が悩み抜いたが、全員からの推薦作総数は、43作品となった。その全リストを見ながら選考会がスタートした。

選考委員全員が観ている作品、一人しか見ていなかった作品が、正直に言って、あった。だが賞の選考において、多数決は最後の最後の手段である。簡単に数字で決着を付けてよいものではない。できる限り、話し合うことを優先した。まず全作について、推薦者から推薦の言葉を述べる。たとえ、推薦者が一人だけだったとしても、すぐに落とすことはしない。推薦者の言葉を聞いて、質疑応答を繰り返す。所見に納得したら、他の委員から、これまでのその劇団の活動を勘案して応援演説をしてもいいことにした。

論議を経て、各作品の成果が詳らかになっていく。注目作が自然に浮上してくる。終盤、10数作品が際立ってきた。そこで司会の九鬼から「一度、投票をお願いします。これで授賞が決まるものではなく、あくまで参考として、経過を見たいものです。授賞にふさわしいと思う作品5作を選んで手を挙げてください」と求めたところ、10作品が際立った。もっと混戦することも予想したが、はっきりと10作品が、他の作品より頭角を現した。
全員が納得した。それが優秀作品賞の10作である。

なお、選考委員の事前の推薦作は以下の通り。(五十音順)
アートひかり「宮沢賢治作品集」から EDLP(エブリディ・ロープライス)「ツェねずみ」、iaku「あつい胸さわぎ」、E9アートカレッジ第2期公演「ちょっとお前、おもてに出ろ!」、壱劇屋「code:cure」、壱劇屋「supermarket!!!」
エイチエムピー・シアターカンパニー「堀川、波のつづみ」、オリゴ党「シンドバッドの渚」、空晴「ここにあるはずの、」、キノG企画「モナ美」、極東退屈道場「クロスロード」、くじら企画「サラサーテの盤」、KUTO-10「三大劇作家、逮捕される!」、紅壱子・南条好輝ふたり会「夜の取調室」、劇団タルオルム「さいはての鳥たち」、劇団未来「パレードを待ちながら」、神戸アートビレッジセンタープロデュース公演 手話裁判劇「テロ」、虚空旅団「フローレンスの庭」、
コズミック・シアター「ザ・空気 ver.3」、コトリ会議「みはるかす、くもへい線の」、サファリ・P「透き間」、サマラ・ハーシュ「わたしたちのからだが知っていること」、下鴨車窓「漂着(kitchen)」、スペースノットブランク「再生数」、
slatstick 「Love in Smoke」、清流劇場「くたばれヒッポリュトス」、空の驛舎「コクゴのジカン」、空の驛舎「花を摘む人」、玉造小劇店 わ芝居〜其の弍「サヨウナラバ」、淡水「(sound)scape」、努力クラブ「誰かが想うよりも私は」、ニットキャップシアター「チェーホフも鳥の名前」、兵庫県立芸術文化センタープロデュース 朗読劇「アネト」、兵庫県立ピッコロ劇団「飛んで孫悟空」、Platz市民演劇プロジェクト「新・豊岡かよっ!」、BOH to Z Produce 「続・背くらべ ~ 親ガチャ編」、槇なおこ×万博設計 槇なおこSolo-Drama「きゃんみりオん」、南河内万歳一座「改訂版 二十世紀の退屈男」、南河内万歳一座「漂流記」、MONO「悪いのは私じゃない」、ももちの世界「あと9秒で」、ヨーロッパ企画「あんなに優しかったゴーレム」、ルドルフ「ヒロインの仕事」、和太鼓GIG 蒼い刻 完結編「継ぐ者」

優秀作品賞10作の評価理由

  1. ルドルフ 『ヒロインの仕事』

    定時で終わる事務職をしながら、創作活動をするアマチュアの同人漫画家と、キャリア志向の強い会社員という、対照的な二人の女性を主軸に、生き方に迷う現代女性の姿を、生き生きと演じたことが評価された。誰の心にもまだ眠っているはずの可能性を信じ、それを力強く描いた、希望のある作品。

  2. MONO『悪いのは私じゃない』

    小さな会社の会議室が舞台。最近退職した若い社員が、いじめに遭ったのではないかと、聞き取り調査をしていく過程で、社員達それぞれが抱く上司や社長への不満、秘密の恋愛模様まで浮上する。ハラスメント問題が吹き荒れる世相に、敏感に反応した誠実な作品であることと、ベテラン・若手俳優それぞれの演じる役のキャラクターが際立った点が評価された。

  3. BOH to Z Produce『続・背くらべ~親ガチャ編』

    岩崎正裕作・演出の「背くらべ」(2003年初演)の続編。初演で、演劇を志す青年・カズヒロを演じた中川浩三が、その19年後を演じ、熱演が評価された。離婚した元・妻の育てた娘と久しぶりに再会し、戸惑うカズヒロ。父への反発心をあらわにする大学生の娘。父と娘の曰く言い難い関係を、演劇的な遊び心のある演出で、ユーモラスに、そして痛切に描き出した点が評価された。

  4. ニットキャップシアター『チェーホフも鳥の名前』

    サハリンを舞台に、日本人、朝鮮人、ロシア人の3つの家族の、ほぼ100年3世代に渡る年代記的な物語を描いた大作。人種や国と個人の関係、戦争との関係を捉えた、現代につながる主題を、明晰に描き出し、俳優が3世代の人々を演じ分けた力演が評価された。2019年初演の作品をさらに練り上げ、ウクライナとロシアの間で戦争が起きている今、再演された意味はとても大きい。

  5. 空の驛舎『コクゴのジカン』

    パンデミックが一応終わったとされる、今から数年後の、とある百貨店の従業員休憩室を舞台に、人と人のかかわり方の可能性を、「コトバ」と「ジカン」の観点から粘り強く考えた作品。真摯なテーマを、ユーモアを湛えながらテンポのよい対話劇として成功させた点、そして兵庫県伊丹市のアイホールの空間を生かした舞台美術と演出・演技が評価された。

  6. サファリ・P『透き間』

    アルバニアのカダレの小説をベースに、優れた身体性と空間造形、そして言葉によって、生の営みをイメージ豊かに展開。血の掟に縛られた、乾いた土地の劇世界へといざない、争いの連鎖という、現代につながる主題を見事に舞台化した点が評価された。

  7. 神戸アートビレッジセンタープロデュース公演 手話裁判劇『テロ』

    オーディションで選出されたろう者、聴者、視覚障害者が出演。手話や口語など、様々な言語を使用した表現の多様性。様々な出会いを包み込むような演劇。観客にとっても情報保障が行き届いた舞台は、世界に影響を与える芸術に発展する可能性をはらんでおり、チャレンジ精神と情熱、社会的意義が評価された。

  8. 劇団未来『パレードを待ちながら』

    第二次世界大戦下のカナダを舞台に、銃後を守る女性達の姿を描いた作品。当時の庶民の生活感情を入念に調べ、生き生きと演じ、作品の本質を伝えることに成功した。戦時中でも歌い、踊り、若い兵士とダンスをする主婦達。出征する若者達に人生の歓びを教え、生きて帰ることを誓わせるためだった。辛さを乗り越えるための挑むような陽気さを描写し、平和への祈りを込めた舞台が評価された。

  9. 劇団タルオルム『さいはての鳥たち』

    1948年の済州島4・3事件を背景に、島から脱出し、大阪に辿り着いた幼い姉妹の半生を描いた作品。苦難の歴史を描きながらも、生き生きとした演技・演出で、大阪の地から、故郷で亡くなった両親や先祖に向かって「私達は生きている。子孫も生きている」と呼び掛けるような、躍動感のある舞台が評価された。

  10. 極東退屈道場『クロスロード』

    大阪市の江之子島で、3年間に渡って上演した、大阪を俯瞰し、都市のありようを表現した作品の集大成ともいえる舞台。能楽堂で上演し「道行(みちゆき)」という表現をモチーフにして、そこに「難民」という現代の問題を取り入れた、時代への批評性の高さが評価された。

選考後記

とにかく、初回というのはむずかしいものです。
世間は受賞作から賞の意図を読み取る、という面があるからです。

「関西演劇界を広げる、広める」というコンセプト、対象が「関西の劇団及び関西発のプロデュース公演。関西2府4県での公演」であり、副賞として協力劇場による受賞団体の上演支援があること。
そして、対象作品はエントリー制ではないので、どれだけ丁寧に掬い上げられるか、というプレッシャー。
ですので、選考会ではまず、委員各自が挙げた候補作一覧を見ながら、絞り込みの対象範囲をどうするか、から頭を悩ませました。
もとより、ジャンルや商業~小劇場などをはっきり分ける境目は存在しませんし。

苦悩の第1回選考結果はご報告のとおりですが、個人対象でなく作品・団体対象の賞がほとんどないこともあり、受賞された皆様にもれなく喜んでいただいた様子を見て、意図は間違ってなかったと安心した次第です。
いろんなご意見をいただきながら、賞も育っていくことを願っています。

武田浩治

副賞

ご支援くださる劇場による劇場利用料の減免。3年以内に1回、1劇場の減免が受けられる。
※詳細は、授賞時にお渡しする「上演支援要項」に記載(消費税を含む、含まないなど、劇場別の細かい規定は、ここでは割愛します)。

優秀作品賞
ウイングフィールド
(大阪市)
1日55,000円で利用できる。機材費無償。
一心寺シアター倶楽
(大阪市)
劇場費80パーセントで利用できる。管理人件費55,000円は実費。稽古場の提供協力あり。
THEATRE E9 KYOTO
(京都市)
5日間250,000円で利用できる。機材費・管理人件費込み、電気代実費。
江原河畔劇場
(兵庫県豊岡市)
劇場費・機材費・電気代すべて無償。
こまばアゴラ劇場
(東京都 目黒区)
(劇場利用が公募制であり、利用申し込み多数の場合は、スケジュールの都合上、採択できない場合もあるが)劇場費・機材費・電気代すべて無償。さらに、関西の劇場支援を受けた上でも、東京公演を行う場合は、こまばアゴラ劇場の支援も重ねて受けられる。
観客投票ベストワン賞
ウイングフィールド
(大阪市)
1日55,000円で利用できる。機材費無償。
一心寺シアター倶楽
(大阪市)
劇場費50パーセントで利用できる。管理人件費55,000円は実費。稽古場の提供協力あり。
THEATRE E9 KYOTO
(京都市)
5日間150,000円。管理人件費・機材費無償。電気代実費。
江原河畔劇場
(兵庫県豊岡市)
劇場費・機材費・電気代無償。
こまばアゴラ劇場
(東京都 目黒区)
(公募制であり、応募多数の場合は希望に添えない場合もあるが)劇場費・機材費・電気代無償。関西の劇場支援を受けた上でも、東京公演を行う場合は、こまばアゴラ劇場の支援が重ねて受けられる。
最優秀作品賞
ウイングフィールド
(大阪市)
劇場費無償(人件費・電気代含む)。機材費のみ有償。
一心寺シアター倶楽
(大阪市)
劇場費無償。管理人件費55,000円実費。稽古場の提供協力あり。
THEATRE E9 KYOTO
(京都市)
劇場費無償。管理人件費・機材費無償(電気代は実費)。
江原河畔劇場
(兵庫県豊岡市)
劇場費・機材費・電気代無償。
こまばアゴラ劇場
(東京都 目黒区)
(劇場利用が公募制である、という点は同じ。ただし最優秀作品賞受賞団体は、最優先に採択される)劇場費・機材費・電気代無償。上記の関西の劇場支援を受けた上でも、東京公演を行う場合は、こまばアゴラ劇場の支援が重ねて受けられる。