コロナからの復興企画~関西演劇を広める、広げる

関西えんげき大賞

第二回 関西えんげき大賞受賞作

<優秀作品賞>(五十音順)
  1. エイチエムピー・シアターカンパニー「リチャード三世―馬とホモサケル」
  2. 大阪大学中之島芸術センター・大阪大学大学院人文学研究科・ 大阪大学総合学術博物館主催「中之島デリバティブⅡ」(林慎一郎作・演出)
  3. 株式会社リコモーション主催「素浪人ワルツ2023」
  4. 空晴「の、つづくとこ」
  5. 劇団不労社「MUMBLE ―モグモグ・モゴモゴ-」
  6. THE ROB CARLTON「Meilleure Soirée」
  7. 清流劇場「セチュアンの善人」
  8. 突劇金魚「小さいエヨルフ」
  9. ニットキャップシアター「よりそう人」
  10. マリヤの賛歌を上演する会「マリヤの賛歌―石の叫び」
<最優秀作品賞>
  • マリヤの賛歌を上演する会「マリヤの賛歌―石の叫び」
<観客投票ベストワン賞>
  • 劇団不労社「MUMBLE ―モグモグ・モゴモゴ-」

第二回 関西えんげき大賞選考経過

九鬼葉子

―2023年12月26日、大阪市天王寺区の一心寺研修会館にて選考委員会開催ー

選考経過のレポートの前に、まずお知らせから。
来年の第3回から、優秀作品賞10作に加え、新たな賞「ネクストドア」賞を創設する。若手を対象にする賞である。関西を拠点に、優れた実績を上げている若手演劇アーティスト、スタッフから1名(あるいは1組)を表彰する。文字通り、新しい時代の扉を開くような、将来の一層の活躍が期待できる方を選考委員が選出し、表彰する。

さて、選考経過について。
選考委員会に先立ち、事前に選考委員7名が、2023年の1年間に鑑賞した関西演劇の中から優秀作品賞として10作品以内の規定で推薦。そのリストをもとに、1作1作の魅力を語り合うところから始めた。推薦作総数は以下の42作品。

第2回関西えんげき大賞推薦作一覧
あゆみ企画「蛍の光」/ iaku「あたしら葉桜」/iaku「モモンバのくくり罠」/壱劇屋「空間スペース3D」/エイチエムピー・シアターカンパニー「ハムレット 例外と禁忌」/エイチエムピー・シアターカンパニー「リチャード三世―馬とホモサケル」/大阪大学中之島芸術センター・大阪大学大学院人文学研究科・大阪大学総合学術博物館主催「中之島デリバティブⅡ」(林慎一郎作・演出)/ 株式会社リコモーション主催「素浪人ワルツ2023」/空晴「の、つづくとこ」/関西芸術座「たこ焼きの岸本」/木ノ下歌舞伎「桜姫東文章」/極東退屈道場「コンテナ」/くじら企画「黄昏ワルツ」/劇団大阪新撰組「光と虫」/劇団そとばこまち「贋作写楽」/劇団太陽族「群羊」/劇団不労社「MUMBLE ―モグモグ・モゴモゴ-」/虚空旅団「四T~桜梅桃李~」/サファリ・P「透き間」/THE ROB CARLTON「Meilleure Soirée」/清流劇場「セチュアンの善人」/Z system「キラメキ~私はトビウオ、あなたは太陽~」/空の驛舎「雨の壜」/立ツ鳥会議「トレマ」/玉造小劇店「お祝い」/玉造小劇店「長い長い恋の物語」/匿名劇壇「いないいないなあ!」/突劇金魚「小さいエヨルフ」/突劇金魚「罪と罰」/トリコ・A「そして羽音、ひとつ」/ニットキャップシアター「カレーと村民」/ニットキャップシアター「よりそう人」/HIxTO「night」/兵庫県立ピッコロ劇団「三文オペラ」/兵庫県立ピッコロ劇団「やわらかい服を着て」/プロジェクトKUTO―10「和解」/マリヤの賛歌を上演する会「マリヤの賛歌―石の叫び」/南河内万歳一座「楽園」/無名劇団「あげとーふ」/MONO「なるべく派手な服を着る」/遊劇体「灯灯ふらふら」/ヨルノサンポ団「コンビニエンス・スペースシップ」


以上、42作品を語り合うところで、すでにかなりの時間を要したが、芸術作品を安易に数字で決めたくはなかった。つまり、投票という手段ではなく、作品の魅力を精一杯言葉にし、話したいと思った。話し合いの中から、次第に10数作品が浮上してきたが、そこからが長かった。6時間近い話し合いを経て、優秀作品賞10作が決定した。
なお、その経過については、選考会の「立会人」である、一心寺シアター倶楽館長の髙口真吾氏が、関西えんげき大賞の「季節のお便りー2024年3月分」で次のように記している。この「季節のお便り」とは、関西えんげき大賞の投票委員と観客投票者にご登録下さっている方に、毎月メールでお送りしている、呼びかけ人の書き下ろしエッセイである。また選考会には、選考が公正に行われているかを客観的に見届ける存在として、選考にはかかわらない「立会人」を毎年2名以上お願いしている。

<髙口真吾「3月の季節のお便り~もっと話そう」から一部引用>
先日の選考会では「いよいよ投票か?」となる各段階において、しつこい程「もっと話そう」が繰り返されました。

当然ながら、各段階で議論は既にかなりの時間を取って行われています。
それでもやはり各委員の意見が揃わないこともある。
各委員がそれぞれの意見を出し切れば、あとは「投票」=「数」しかなくなる。
もちろん皆さん「数」で決めたくはない、、、
が、致し方ないのでは、、、というタイミング。
しかしそういった時必ず「もっと話そう」という言葉が交わされました。
何度も何度も。
そして毎度訪れる何とも言えない「沈黙」の時間・・・。
「もう議論が再開することはないのでは?」と感じる程の時間経過のあと、
それでも誰かがポツっと何か言う。
「出尽くしたかに思われたその先から発掘された言葉」は毎回、他の委員の「その先」を引き出しました。(中略)
(自分も)一俳優として現場で「もっと話したく」なりました。
小劇場の現場では「創る人間」も「観る人間」も、あまり経済原理では動いていません。だったら「数」ではなく「話しあい」が良いと思うんです。

・・・以上が、立会人の目撃談である。「その先」の先まで話し、最後は選考委員全員一致で納得し、10作品の受賞を祝福して、無事に終えることができた。
ちなみに、あと一つ、繰り返された言葉があった。「来年のお楽しみ」である。すぐれた作品は、勿論この10作だけではない。授賞にふさわしい作品は、ほかにもたくさんあった。来年の授賞を、私達も楽しみにしている。

優秀作品賞10作の評価理由

  1. エイチエムピー・シアターカンパニー「リチャード三世―馬とホモサケル」

    シェイクスピアの『リチャード三世』をベースに、現代的な視点で描かれた、くるみざわしんの新作。演出は笠井友仁。暴君の転落の過程をたどるのは原作通りだが、そこに、引き際の見えない戦争など、今、世界で起きている様々な問題と、そこに流れる人間の思いを込めた。父によって戦うことを運命づけられたリチャードが、女性達によって戦いの呪いから解かれるラストは感動的。戯曲、上演のスケール、俳優の演技力が高く評価された。

  2. 大阪大学中之島芸術センター・大阪大学大学院人文学研究科・大阪大学総合学術博物館主催「中之島デリバティブⅡ」(林慎一郎作・演出)

    大学のアート人材育成プログラムとして、アーティストと受講生、研究者が交流、調査し、作り上げた作品。極東退屈道場の林慎一郎作・演出。観客は、劇場内で大阪・中之島を巡るフィクションの物語を楽しんだ後、俳優とともに劇場を飛び出し、中之島周辺を移動しながら、この場所の歴史と今を実感。さらに未来へと思いを馳せる。観客の身体感覚に訴えかける、巧みな構成と演出。また大学が主導して、演劇の創作現場を一般の方々に開き、文化の土壌を豊かにする企画の社会的意義も評価された。

  3. 株式会社リコモーション主催「素浪人ワルツ2023」

    マイムと生演奏、映像がコラボするウォーリー木下作・演出、いいむろなおき主演の舞台。決闘を恐れた佐々木小次郎が、東海道を西へと旅する物語。海底から町屋まで、様々な場所を奔放に行き交う内容で、床に映し出された風景の映像に溶け込むように、いいむろが床に横になったかと思うと、立ち上がって走り出し、二次元と三次元を行き交う。パントマイムの魅力を、広くたくさんの方々に伝えていきたいという、いいむろの思いが溢れ出す、魅力的なパフォーマンスが評価された。

  4. 空晴「の、つづくとこ」

    かつて近所の人達から愛された喫茶店があり、今は空き地になっている場 所が舞台。そこに現れる近所の人々やその親戚達が織りなす、すれ違いと勘違いの物語。ハートウォーミングなコメディだが、それぞれの人物は問題を抱えており、それは私達の日常同様に、劇的に解決することはない。ただ、大事な記憶を思い出し、未来へとつなげていく。岡部尚子の劇作と演出、そしてキャラクターを魅力的に膨らませた演技が総合評価された。

  5. 劇団不労社「MUMBLE ―モグモグ・モゴモゴー」

    コメディとホラーの要素が程よくまじりあった独特の作風で、これまで、ムラ社会的な閉鎖コミュニティを描く「集団暴力シリーズ」を展開してきたが、今回はその集大性として、山奥に住む家族の物語を繰り広げた。西田悠哉作・演出。一見楽しげな食卓風景から始まり、やがてカニバリズム=人が人を食べる話へと至り、生命倫理に迫る。人間の愚かさが徹底的に描かれ、喜劇的な独特の魅力が評価された。

  6. THE ROB CARLTON「Meilleure Soirée」

    スーツ姿の男達、鋭い眼光、お酒が並ぶ洒落た部屋。ハードボイルドの気配たっぷりの幕開けだ。実はこれは劇中劇。マチネを終えて楽屋で雑談する場面を挟み、ソワレの劇中劇へと移る。ところが一人の俳優が舞台上で居眠りをしてしまう。何とか芝居を自然につなげようと、他の俳優達は右往左往。俳優達の頃の声は関西弁で話されるため、クールな劇中劇とのギャップも笑いを生んだ。コメディは真面目に演じるからこそおもしろい。そのお手本のような舞台であったこと、また、俳優それぞれの個性を生かすウィットに富んだ構成の巧みさが評価された。村角太洋作・演出。

  7. 清流劇場「セチュアンの善人」

    ドイツの劇作家、ブレヒトの戯曲を現代的にアレンジ。大阪弁のテンポのいい生活言語に書き換え、庶民の活力と悲しみを焙り出した。ジェンダーの問題や、資本主義の限界など、現代社会の苦い現実を重ねて描きつつ、達者な俳優達が、恋のロマンティックさや滑稽さなどを魅力的に表現。劇の楽しさで一気に魅せた、完成度の高い舞台が評価された。田中孝弥台本・演出。

  8. 突劇金魚「小さいエヨルフ」

    フィヨルドを望む家を舞台に、複雑な家族関係が描かれた、ノルウェーの劇作家・イプセンの作品。家庭の裏側に潜む欲望や執着などの感情を、大胆に諷刺した演技・演出。扇町ミュージアムキューブの小空間を洞窟のように作り込み、アンダーグラウンドの気配漂うエンターテインメントに仕上げた。繊細に表現されることの多かったイプセン劇のイメージを大きく変える挑戦的な舞台が評価された。サリng Rock脚本、演出。

  9. ニットキャップシアター「よりそう人」

    京都府舞鶴市の地域の人々に丹念に取材した、ごまのはえ作、西村貴治演出の舞台。舞鶴に暮らす三人の女性の恋模様を、戦前の記憶、戦中の傷、戦後の生活とともに描き出した作品。終戦後、外地から引き揚げてきた人達に寄り添って生きてきた、舞鶴という町の持つ力、舞鶴の人々の、寄り添う力を、淡々とした市井の暮らしの描写を通して、生き生きと立ち上げた点が評価された。

  10. マリヤの賛歌を上演する会「マリヤの賛歌―石の叫び」

    戦時性暴力を主題にしたくるみざわしんの戯曲を、金子順子が熱演。岩崎正裕演出。原案は、慰安婦体験を綴った城田すず子の手記。後年、生きがいを得て歩み始めるまでの勇気と生気が描かれた。戦争をやめれば、戦時性暴力はなくなる。強いメッセージを、7月から12月まで、毎月1回上演という、大変な公演形態の中で伝えられた。演出家との共同作業の中で、真摯な主題に渾身の演技で向き合われた、たぐいまれなる精神力とテクニック、表現力が高く評価された。

副賞

ご支援くださる劇場による劇場利用料の減免。3年以内に1回、1劇場の減免が受けられる。
※詳細は、授賞時にお渡しする「上演支援要項」に記載(消費税を含む、含まないなどの細かい規定は、ここでは割愛します)。

優秀作品賞
ウイングフィールド
(大阪市)
1日55,000円 機材費無償。
一心寺シアター倶楽
(大阪市)
劇場費80パーセント(管理人件費55,000円実費) 及び稽古場の提供協力
THEATRE E9 KYOTO
(京都市)
利用料5日間 or 6日間250,000円 管理人件費・機材費無償 (電気代は実費)
江原河畔劇場
(兵庫県豊岡市)
劇場費・機材費・電気代無償
観客投票ベストワン賞
ウイングフィールド
(大阪市)
1日55,000円 機材費無償。
一心寺シアター倶楽
(大阪市)
劇場費50パーセント(管理人件費55,000円実費) 及び稽古場の提供協力
THEATRE E9 KYOTO
(京都市)
利用料5日間150,000円 管理人件費・機材費無償(電気代は実費)
江原河畔劇場
(兵庫県豊岡市)
劇場費・機材費・電気代無償
最優秀作品賞
ウイングフィールド
(大阪市)
劇場費無償(人件費・電気代含む) 機材費のみ有償
一心寺シアター倶楽
(大阪市)
劇場費無償(管理人件費55,000円実費) 及び稽古場の提供協力
THEATRE E9 KYOTO
(京都市)
劇場費・管理人件費・機材費無償(電気代は実費)
江原河畔劇場
(兵庫県豊岡市)
劇場費・機材費・電気代無償