大阪にはHPFがある。Highschool Play Festivalである。毎年夏、大阪の小劇場で開催される高校演劇祭。
今年は7月21日から8月4日まで、一心寺シアター倶楽、メイシアター、高槻城公園芸術文化劇場南館、ウイングフィールドを会場として、12校が参加して行われる。
原則として一日一校一公演が行われる。朝に小屋入りして、仕込んで、リハーサルを行って、そして本番を上演し、再びばらして公演終了。会場提供する劇場も、高校生の上演をサポートするスタッフも、高校生につきっきり。一日の終わりは、劇場、スタッフ、高校側の全員が集合してのミーティング。本番を終えた高揚感の中、晴れ晴れとした表情の高校生を劇場、スタッフは送り出し、翌日に備える。
これを毎日、この期間、各会場で繰り返していくHPF。このような高校演劇祭はどこにもない。大阪だけの、大阪が誇る演劇祭なのだ。
始まりは1990年。大阪駅近くの専門学校地下に存在した小劇場スペースゼロでHPFは産声を上げた。生みの親がその専門学校講師で、スペースゼロを運営されていた演出家の故古賀かつゆき氏だった。高校演劇コンクールの審査員をされた古賀氏が、高校生が本当に自由に表現したい舞台を提供したい、と始められたものだった。上演時間1時間以内で、それを超えると失格となるルールのため、やりたい作品は制約を受けるし、審査によって競争意識が生じてしまうコンクールでは、のびのびとした自由な表現は難しいのではないかとの思いから、第1回からこのようなシステムが採用されていた。
それがもう、30年を超えて続いている。この歴史に携わった人たちは多く、地元大阪、関西はもちろん、全国各地で今も活躍している人がいる。
今年は世代交代が進み、運営するHPF実行委員会の代表も事務局長も交代した。新たに代表となった高杉学氏は言う。「やりたい気持ちがあるのなら、5年でも10年でも続けていかないといけないと思います。コンクールとは違う、楽しい表現の場としてのHPFという根本は変えないで、僕らの世代が高校演劇の文化を守る気持ちで続けていこうと思います」
しかし、コロナの直撃を受けた高校演劇の現状は決して楽観視はできないようだ。昨年度まで事務局長であった古川智子氏は「今年は、中学の3年間で文化祭を全く経験していないような生徒が高校に入ってきました。マスクでの活動に慣れすぎて本番でも外すことをいやがる演劇部員もいます」と語る。
働き方改革、ブラック部活問題。演劇部をとりまく環境は変化し、ポストコロナの現在はゼロからの出発なのかもしれない。しかし「なにもない空間」(ピーター・ブルック)というのなら、それこそ演劇ではないか。そもそも高校演劇自体、敗戦後の何もない焼け跡から生まれた新しい文化だった。
スペースゼロ閉鎖の時、古賀氏は「閉鎖された小劇場『スペースゼロ』の記録」に記している。「やがて部活そのものが後ろ指をさされ、冷たい視線にさらされる時代が来るのだろう。それでも尚、身を寄せ合いながら作り出される高校演劇があるに違いない。想像するだけで胸が熱くなる」
「なにもない空間」から立ち上がる高校演劇、HPF。新しい力は誰も予測できない。それが今年、始まろうとしている。
■執筆者
吉田美彦(NPO法人日本学校演劇教育会関西支部事務局長)
■会場
一心寺シアター倶楽(18時30分開演)
■公演情報 HPF2023
一心寺シアター倶楽(18時30分開演)
7/21(金)…桜塚高校 「中身のない箱」
7/22(土)・23(日) …大谷高校 「僕らは最強」(22日は18:30開演 23日は13:00、18:00開演)
吹田市文化会館 メイシアター(18時30分開演)
7/24(月)…豊島高校「わたしたちはうそつき」
7/25(火)…金蘭会高校 「山姥」
7/26(水)…東海大学付属大阪仰星高校 「オーレ!Ryoma」
7/27(木)…長尾高校「DOLL」
高槻城公園芸術文化劇場南館大スタジオ(18時30分開演)
7/28(金)…大阪成蹊女子高校 「ハックルベリーにさよならを」
7/29(土)…枚方なぎさ高校 「夢遊少女-Dream Girls-」
7/30(日)…咲くやこの花高校「少女瓶詰」
ウイングフィールド(全日程 18時開演)
8/1(火)…美原高校「ナイス・コントロール」
8/2(水)・3(木)…精華高校 「赤ずきんちゃん」
8/4(金)…池田高校 「傷は浅いぞ」
■料金
カンパ制(中高生 500円 ※要学生証 / 一般 1000円)
■チケット申込先
予約フォーム https://forms.gle/Q82uvSArGtYQ2j1P7