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大阪を拠点に、在日コリアンと日本の有志達によって2005年に結成された劇団タルオルム。第1回関西えんげき大賞(2022)優秀作品賞を受賞、また韓国・釜山公演では韓国2023RED AWARD「注目すべき視線」部門を受賞している実力派だ。「夜道を照らす月の明かりになりたい」と、タル(月)、オルム(昇り)と命名。年に1度の自主公演のほか、学校公演も精力的に行い、結成時から韓国公演も続けている、バイリンガル劇団である(日本で上演する時は、基本日本語で、朝鮮韓国語の台詞のみ韓国語の字幕がつく。韓国で上演する時は、それが逆転する)。
20周年特別企画として、39作目となる新作『おとうとが消えた日』を上演する。これまでも、実際に起きた悲劇的な事件を描きつつ、生気溢れる舞台を創出してきたが、今回も実在の事件を扱う。1970年代に韓国で多発した在日韓国人スパイ捏造事件がモチーフ。事件に巻き込まれた人々に取材し、構想を練り、3年近くかけて書き下ろした労作。劇団代表で作・演出の金民樹(キム・ミンス)に、新作について、そして劇団として目指していることをお聞きした。
スパイの濡れ衣を着せられた在日コリアンの格闘
1970年代から80年代にかけて、韓国では在日韓国人が「北のスパイ」にでっちあげられる事件が相次ぎ、無実の人々が韓国の獄中に捕らえられた。軍事独裁政権下の民主化弾圧が背景にある。本作のモデルとなった人物は、九州で生まれ育った在日二世。東京の大学を卒業後、韓国の大学院に留学。卒業を2週間後に控えたある日、突如連行され、スパイであるという自白を強要され、13年間投獄された。彼との結婚式を控えていた女性や家族、親族達の格闘の日々が描かれる。
「劇団タルオルムは、声を上げられなかった人々の声なき声と、過酷な状況下でも力強く生きた人々を描いてきましたし、今後も描きたいと思っています。今回は特に在日コリアンと母国の関係、そして家族の物語を描きたいと思います」。
濡れ衣を着せられた彼には、支えた人々がいた。その中には日本人も数多くいたという。日本での学校の級友達などだ。
なお、劇団タルオルムの作品では、在日コリアンの過酷な歴史が描かれるが、彼らを支える日本人の姿も描写されてきた。
日本と朝鮮半島の架け橋になる舞台を作りたい
第1回関西えんげき大賞優秀作品賞受賞作『さいはての鳥たち』(2022年)は済州島4・3事件を背景にした作品だが、そこでもキーパーソンの一人を日本人にした。1948年、朝鮮半島分断に反対する済州島の島民達が選挙を放棄。軍や警察に島民3万人が虐殺された事件。原作は、済州島から命からがら大阪に辿り着いた人々を描いた、金蒼生の小説。日本で生活するようになった主人公の窮地を救った人物は、原作では在日朝鮮人だった。それを金民樹は原作者に直談判し、台本では日本人に変えた。かつて大阪大空襲の時、在日朝鮮人に命を救われた日本人女性が、その恩返しとして今度は朝鮮人を救ったという設定にした。その変更により、復讐の連鎖は戦争を生むが、恩返しの連鎖は平和を実現することが示唆された。「この20年間の、日本人の役者さんやスタッフさん達との創作の過程があります。彼らの力がとても大きいです。良い助言を下さって、困った時には助けてくれました。彼らがいたからこそ、今の私達がいます。それはとても大切な関係です。劇団結成当初、劇団名の由来である『夜道を照らす月の明かりになりたい』には、在日コリアンの若者達の夜道を照らしたい、という思いを込めていましたが、今は変わりました。私は、自分は日本人ではないという自覚はありますが、日本社会の一員であると思っています。日本への恩恵と愛情があります。この社会全体を美しく照らしたい。この社会に生きる人達の夜道を照らしたい。この20年間でそれを目指したいと考えるようになりました。日本と朝鮮半島の架け橋になる舞台を作りたいと願っています」。
今回の舞台でも、在日コリアン俳優達と、関西で活躍中の日本人俳優達が共演する。韓国留学中に無実の罪で投獄される青年・チャンを大橋逸生、青年が結婚を約束したソウル在住の女性を姜河那、彼を弟のようにかわいがる在日コリアンの叔父をリリパットアーミーⅡのうえだひろし、母親をシバイシマイの是常祐美、親族を、劇団副代表の卞怜奈が演じる。
韓国・済州島の劇団との交流
金民樹は在日三世。祖父母が済州島から日本に渡った。朝鮮学校出身で中学の放送演劇部(口演部)で演劇を始めた。中学2年生の時、大阪で、在日コリアンによる劇団アランサムセを観劇。朝鮮語だけの芝居を初めて見て、朝鮮語の美しさを改めて実感。その時の思いが演劇を続ける原動力ともなり、劇団結成につながった。旗揚げ作品は『孤島の黎明』。済州島4・3事件を扱った作品で、創作準備中に済州島に行き、当地の劇団と出会った。以来交流が続き、彼らからマダン劇を学んだ。「韓国では文化芸術への助成金が手厚く、私達にマダン劇を教えてくれるために来日する時の彼らの渡航費も、そして私達がマダン劇を学ぶために彼らのもとに行く時の渡航費までも、助成していただけました。大変感謝しています」。
演劇を通して死者を弔う
舞台にはユーモアもあり、生きるエネルギーが溢れる。今回は台詞劇だが、歌や舞踊を取り入れたり、また、舞台を客席が丸く囲むように設置し、観客に語りかけながら一体感を楽しませるマダン劇を作ったりすることも多い。生き生きとした舞台は、観客に訴えかけるとともに、済州島での悲劇に見舞われた先祖達の魂に向けて、「私達は今、日本で生きています。子孫が生きています」と力強く呼びかけているようにも思える。ちなみに大阪は、日本で最も多く済州島をルーツとする在日コリアンの多い地域である。「芝居には死者への弔いの意味があると思います。声を上げられずに亡くなった人の思いが、私達の胸にあるからこそ、彼らの分も頑張れます」。
歴史のもつれをほどく
2007年初演の『4.24(サイサ)の風』は、再演を重ね、日本と韓国で36カ所、約1万人を動員している。1948年の4.24教育闘争がモチーフ(阪神教育事件とも呼ばれる)。GHQの指令を受け、日本政府が朝鮮学校閉鎖命令を発令したことから起きた悲劇である。デモの中、在日朝鮮人少年が亡くなった。抑圧したのは日本人ではあったが、作品では一方的に日本人を責めているのではない。第二次世界大戦、さらに言えば第一次世界大戦から面々と続く世界中の混乱に翻弄される中で起きた悲劇であることを冷静に分析し、もつれた糸をときほぐすように、編み上げた。さらに母国の言葉や文化を大切にするアイデンティティも伝わる。
母国の歴史や文化を大切にしながら、日本を愛し、日本に根を下ろし、納税し、生きている姿。母国の文化を大事に思うのは、日本人も同じである。お互いに大切にしていることを尊重し合いながら、真に共生する社会が来ることを、舞台を見ながら、私は願わずにおれない。
(取材・文/九鬼葉子)
■公演日
2025年9月
19日(金)19:00〜
20日(土)13:00〜、17:00〜
21日(日)11:00〜、15:00〜
■会場
一心寺シアター倶楽
(大阪市天王寺区逢阪2丁目6-13)