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活性化する関西の若手演劇シーンの中でも、特に進境著しい劇団不労社。2015年、大阪大学を母体に旗揚げし、当初から「暗黒」と「喜劇」をキーワードにした作品群が注目を集め、数々の賞を受賞。最近では『MUMBLE―モグモグ・モゴモゴー』で、第2回関西えんげき大賞(2023)優秀作品賞・観客投票ベストワン賞を受賞。全国区の賞でも、演劇人コンクール2024にて、代表の西田悠哉が最優秀演出家賞及び観客賞を受賞している。西田はさらに「ロームシアター京都レパートリーの創造 ホープス」(京都から世界へ才能を発信する新プロジェクト)のアソシエイト・アーティストに採択され、海外公演を視野に世界へ羽ばたこうとしている。
5月末から東京と京都で第15回せんがわ劇場演劇コンクールオーディエンス賞受賞作『サイキック・サイファー』を改訂再演するのを前に、劇作家・演出家・俳優の西田悠哉にインタビューした。作風はホラーのようでいて爆笑を誘い、日常的光景から超現実的次元へ突如飛躍する。台詞はラップのようにリズミカル。その斬新な作風のベースにあるものは、何なのか。少年時代にまで遡って話を聞いた。
一番影響を受けたのはラッパーの宇多丸
高校まではサッカー部員だった体育会系。一方で中学の時、ラッパーで映画評論家の宇多丸を知り、彼の影響でラップと映画にはまった。「宇多丸さんが、タランティーノについて、ヒップホップ的な映画の作り方をしていると語ったことに刺激を受けました。ヒップホップは、ソウルやジャズなど過去の音楽の一部分を切り取り、反復させて1つの音楽を立ち上げていきますが、タランティーノ作品にも過去の映画など元ネタが存在しています。パッチワーク的な作り方に興味を持ちました」。
そして大阪大学進学後、演劇サークルのメンバー達とアメリカのホラー映画『悪魔のいけにえ』(トビー・フーパー監督)を見た時、「皆で爆笑したんです。ホラー映画で笑ったのが新鮮でした。爆笑が起きた理由は、予想のできない展開と、そして『火力』(熱の強さ)。恐怖も、過剰になると、笑いが起きます」。その時、笑いと恐怖の境界への興味が芽生えたという。多くのホラーファンや批評家から、史上最も怖い映画の1本と評される『悪魔のいけにえ』だが「冒頭の30分は何も起きないんです。ただ、不穏な空気は常に流れています。あるコミュニティの中のいじめなど、イヤな感じのコミュニケーションが描かれて、入り口はリアルなんです。それが突如、過剰なまでに異様な虚構世界へと飛躍します。このリアリティを演劇ならどう設定するのかが、学生時代に抱いた興味でした」。その具体的な方法論を考えた時「大人計画もつかこうへいも唐組も好きですが、自分がやるとなると、自分のパーソナリティとは温度感が違うんです」。そんな時に出会ったのが、当時大阪大学で教授をしていた平田オリザだった。「平田オリザさんは、引き算の美学です」。平田オリザによる現代口語演劇との出会いにより、「過剰」へと上昇する前の、リアリティを構築する方法を掴んだ。
一方、現在の劇団員である永淵大河らと「SHU-MI」というグループで、ラッパーとしても活動している。西田の台詞のリズム感は、その経験がベースにある。ホラー映画とラップと現代口語演劇。それらが彼自身の組み合わせの妙により、独自のスタイルとして結実するに至った。「戯曲を書く時は、プロットなしで冒頭から書いていきます。転調した方が良いと思った時も、ロジックではなく感覚的に転調します。即興的に作るのはラップみたいな感覚です」。
2つのシリーズのコンセプト
創作には2つのシリーズがある。まず本公演で行ってきた『MUMBLE―モグモグ・モゴモゴー』をはじめとする「集団暴力シリーズ」。ムラ社会的な閉鎖コミュニティを舞台に、共同体に内在する暴力性を考察するものだ。このシリーズは『MUMBLE―モグモグ・モゴモゴー』で一旦完結したが、今秋発表する新作『暗黒の喜劇』は、因習、権力、執着といった要素を持つ同シリーズの系譜に連なる作品である。なお本公演では、小劇場の中でも比較的大きい空間(ロームシアター京都やアイホールなど)で、客演も迎え、大作を上演する。
集団暴力シリーズは、ヒューマン劇と言える。そこには、東京で生まれ育った西田が、中学の時富山県に移住した経験も影響している。田舎のスローライフの良さは勿論あるものの、生き辛さも正直感じたという。「町のゴミ拾いに参加しないことで白い目で見られ、そのことがすぐ噂になるような環境でした」。ただ、それは地方に限ったことではなく、日本人のメンタリティに共通に根差すものと気づき、それが、相互監視や同調圧力を描く同シリーズに発展した。一方で「ヒューマニズムを前提とした劇は、人間が問題を解決し、乗り越えていく過程を描くものですが、現代社会でそれが機能しているのか?という疑問もあります。問題を問題のまま放置し、葛藤すらできない状況なのではないでしょうか」。
その発想からノンヒューマン劇への志向も生まれ、もう一つのシリーズ「FLOW series」へとつながる。このシリーズは、自分の手法を広げるための実験的枠組みとして、劇場ではない場所で、場所の匂いや気配を取り込みながら、劇団員だけの少人数で行っている。『悪態』(2022年初演)は、大正時代に建てられた大阪のフジハラビルや、豊岡の友田酒造など、5都市で31公演を展開。リミナルスペース(日常と非日常、現実と異世界が混在する境界空間)と呼ばれるネットミームから想を得た作品。俳優達が激しい身体表現を繰り広げ、全てのカオスが終わり、溶暗した後再び明かりがつくと、舞台は無人で、赤い球体が3つだけ存在している。その風景が強い印象を刻んだ。「人が主役ではなく、空間やモノも同時に主役になる。人が誰もいない風景は、気配や余熱を劇の中心にしたかったものです」。
最新作「サイキック・サイファー」のモチーフは陰謀論とラップ
間もなく上演される『サイキック・サイファー』は、「FLOW series」の最新作 だ(2025年初演作の改訂再演)。FLOWとは、不労社のフロウであり、またラップの歌い回しのことでもある。本作は「電子音楽劇」と銘打ち、ラップもふんだんに盛り込まれる。音楽はin the blue shirtが担当する。作品のモチーフは、陰謀論とラップ。なお、陰謀論は、今秋予定されている本公演の新作『暗黒の喜劇』でも継続して取り上げる。
陰謀論者とは、社会的な出来事や歴史的事件の背景には、必ず巨大な闇の組織や黒幕による「計画的な陰謀」があると信じ、主張する人々のことであり、SNSで拡散する傾向がある。「陰謀論に夢中になること自体が楽しいのだと思います。世界に悪い奴がいて、自分の不幸や孤独の原因をそこに見出す。隠された真実を見つける興奮は、人類に備わっている高揚のメカニズムです。ただ、作品では、その善悪を論じてまとめるのではなく、何故人々は陰謀論にはまるのかを描きたい。今、皆それぞれ信じているストーリーが違うんです。かつてはマスメディアによって世界観がある程度共有できましたが、今はネットからどんな情報を得て、影響を受けているかにより、リアリティのベースが根本的に違います。パラレルワールドと化した分断社会を見つめていきたいと思います」。
本作のあらすじは、恋人の失踪をきっかけに精神のバランスを崩した女性が、現実の空虚を埋めるようにサイファーへと導かれていくものだ。サイファーとは、ラッパーが輪になって即興(フリースタイル)を披露し合う場のことである。一見無関係なラップと陰謀論だが、ともにコミュニケーションツールの1つと捉え、点と点を線で結び付けるように創作する。「星座とは、関係のなかった星と星を人間がつないで、何かの形に見立てて名付けたもの。星座のように、点と点を繋げて大きな絵を描くように作品を作りたいと思っています」。
また今回は、装置も見ものである。名付けて「スーパーシアトリカルマシーン」。舞台上にテントを建てるのだという。「これさえあれば、どこでも演劇が行える」そんな装置を目指した。劇団員の俳優4人でセッティングでき、形も変容できる。スクリーンを降ろし、映像も映し出せるが、同時にその背後にいる俳優も、透けて見せることができる。効果のほどが楽しみだ。
ネットワークを広げたい
将来の目標を聞くと「まず劇団を続けること。今、何でも始めることのハードルは下がっています。AIに聞いたら方法が出て来ますから。しかし続けることは誰でもできることではありません。そして関西を拠点にしつつ、海外も含め、ほかの地域とネットワークを築いていきたいと思います。観客ともプレーヤーともつながっていきたい。今回も、東京と京都で2チーム作る感覚です。スタッフは2都市で違い、動くのは劇団員だけです。演劇はその場でしか見られないものであり、また現地に行って人と出会える性質もあります。往来ができます。関西小劇場としてのコミュニティを築くのも大事ですが、緩やかにほかの地域とつながっていく、人の動きがあるといいと思います。ネットワークを広げていきたいです」。
異質なものが融合する独創的な劇世界。前述のホラーやコント、ラップと現代口語演劇などへの興味のほか、パロルド・ピンターの研究(大阪大学卒業後、映像制作会社への就職を経て、京都大学大学院に進学。この3月に卒業した。修士論文のテーマは、ハロルド・ピンター)や、演劇人コンクール2024で最優秀演出家賞と観客賞を受賞した時の対象作が、別役実作『マッチ売りの少女』であったという側面も持つ。
ボーダーを軽々と超えていく創作の感覚は、境界を越え、世界とつながっていきたいと願う人生観とも重なる。生身の身体が介在する演劇文化を通して、人々がつながる。未来を切り開き、平和へと結びついていくことに期待したい。
(取材・文/九鬼葉子)
<東京公演>
■公演日
2026年5月
29日(金)20:00〜
30日(土)12:00〜、17:00〜
31日(日)12:00〜、17:00〜
※受付開始・開場は開演の30分前。
■会場
調布市せんがわ劇場
(〒182-0002 東京都調布市仙川町1-21-5)
<京都公演>
■公演日
2026年6月
12日(金)19:30〜
13日(土)19:30〜
14日(日)19:30〜
※受付開始・開場は開演の30分前。
■会場
ロームシアター京都 ローム・スクエア
(〒606-8342 京都市左京区岡崎最勝寺町13)