コロナからの復興企画~関西演劇を広める、広げる

関西えんげき大賞

の劇評 劇団壱劇屋の大熊隆太郎、観客参加のオールスタンディング演劇の見どころを語る VIEW:672 UPDATE 2024.05.17

「劇場に来るって、めっちゃ楽しいこと!と、感じてほしい」と語るのは、劇団壱劇屋代表の大熊隆太郎。6月14日から兵庫県伊丹市のアイホールで上演される新作『LOVE TOURNAMENT』(大熊隆太郎脚本・演出)は、観客参加型の「オールスタンディング演劇」だ。あたかもスポーツ観戦するかのように、観客は、鑑賞と体験の両方が楽しめる、一体感のある演劇。コロナ禍以降、まだ完全には動員が以前のように戻っていない関西演劇界だが、わくわく感のあるステージが、起爆剤になるかもしれない。次回作の見どころを語って頂いた。

観客との距離の近い小劇場で、みんな一緒に楽しみたい

同劇団は「世にも奇妙なエンターテイメント」と称して、パントマイムやダンスなど、身体表現を駆使した、多彩な演劇を繰り広げている。これまでも、観客が俳優とともに大劇場のロビーや舞台袖、客席、地下の倉庫などを歩きながら鑑賞する「ツアー型演劇」などを行ってきたが、舞台と客席を取り払った、フラットな空間でのオールスタンディングの演劇は、今回が2作目。第1弾の『空間スペース3D』は昨年再演され(初演は2019年)、観客のすぐそばで俳優達が歌い、踊り、演技をし、時に観客も参加する、まるでクラブでライブ体験をするような、とびきりはじけたステージだった(注:静かに見ていたい観客のための椅子席も用意されている)。
「お客さんとの距離の近さや臨場感が魅力の小劇場で、『みんな一緒に楽しもうぜ!』という気持ちで作りましたが、お客さんが楽しそうで、きらきらしているのが演者からもよく見えて、演じる側もさらにノリノリになりました。相乗効果となり、モチベーションがますます上がりました」。確かにこの舞台で、観客は皆、俳優達の呼びかけに応じ、積極的に参加していた。こういった舞台に慣れているように見えたが、意外にも観劇後の観客の感想は「『こんな演劇を体験するのは初めてで、最初は少し不安でしたが、最後はノリノリになって楽しかったです』という言葉を頂きました」とのこと。サービス精神に満ちた親しみやすい舞台で、自然と観客もリラックスしていたようだ。
「劇場にせっかく来ていただくなら、他では得られない体験をお客様にしていただきたいです」。

モテるための手練手管を、人前で堂々とやってみせる

新作『LOVE TOURNAMENT』では、観客は、ある試合の観衆という設定で劇を体験する。その試合とは、なんと恋の試合。
物語の前提として、ある日、関西に不思議な隕石が落ち、以来、女子高生達が究極のモテ期に突入し、関西はモテモテ戦国時代となる、という設定。そこに目を付けた大富豪が、最強のモテモテ人間を決めるラブトーナメントを開催するというものだ。物語は、相手を自分に惚れさせたら勝ち、というゲームが行われる大会当日の、予選から決勝までが綴られる。その間に、本物の恋愛も生じ、また大人達の野望や、隕石の謎などの裏ストーリーも絡まる。
恋愛を真正面から取り上げることについて「今回のテーマは、『モテ』にしたいと思いました。動物の場合は、子孫を残すことを目的に、モテようとし、姿形の派手さや強さを競います。でも人間の場合の『モテ』とは、『幸せになるため』ではないでしょうか。人を好きになり、そして相手に好かれたいと思う。そのためには努力が必要です。相手を思いやること。それが幸せにつながって、もっと広い意味の人間愛にもつながっていきます。モテるための手練手管は、本来、人に悟られないようにするものですが、それを人前で堂々とやることがおもしろい。求愛を描こうとすると、人間の滑稽な面も浮かび上がってきますから」。
同劇団の舞台には、毎回斬新なアイディアが満ちている。大熊原案のもと、劇団員が稽古場で発想を広げ、全員で膨らましている。今回は客演陣を含め「相手をどきっとさせるための、恋の手練手管を話し合った」とのことで、和気あいあいとした稽古場の光景が目に浮かぶようだ。

劇団壱劇屋は「増殖中」

関西屈指の人気エンタメ劇団だが、実は劇団壱劇屋には、大阪組と東京組というふたつのチームがある。珍しい体制だ。もともとは大阪の劇団で、2008年、磯島高校演劇部出身者達により創立されたが、2019年に旗揚げメンバーの竹村晋太朗と、一部のメンバーが東京に活動拠点を移した。それを機に、劇団も大阪と東京のふたつのチームに分かれた。ただし「分裂」でなく「増殖」。壱劇屋の表現を続けたい気持ちに変わりはない。東京は殺陣中心の舞台作りとなり、 2.5次元的なステージが人気上昇中。大阪と東京のチームが合同で公演を行うこともある。
大阪組は若手中心の顔ぶれとなり、現在16人。東京組は、最近もメンバーが増え、正劇団員が14人、準劇団員が7人の計21人。フォトグラファー1名を含め、全体で38人の大所帯となった。
若手を入れては、育て、を繰り返し、劇団として成長を続けている。
また今回、高校生以下無料、22歳以下500円という、破格の料金設定をしている。「若い世代にも小劇場の魅力を知ってほしいです」。小劇場は、何かきっかけがないと、最初に足を踏み入れる時の敷居がやや高いようで、若い世代の新しい観客層の開拓が、各劇団の課題にもなっている。そこを見据え、思い切った方法をとっている。

関西演劇界に必要なこと

大熊は、京都で大ヒットロングラン中のノンバーバルシアター「ギアーGEAR-」レギュラー出演者としても知られる。作、演出、演技、パントマイム、ダンス、振付、そして劇団公演の劇中歌の作詞作曲まで行う、何でもできる、才能豊かなアーティストである。劇団外でも、俳優やパントマイム、演出などの仕事も多く、演劇やマイムのワークショップの講師の依頼もあり、舞台の仕事だけで食べられている関西では稀有の存在である。その多才ぶりゆえ、子供の頃から芸術や芸能活動を行ってきたのかと思ったが、意外にも、活動のスタートは、高校演劇部からとのこと。すべてそれ以降に始めて、身に着けたものだ(中学まではバスケットをしていた)。バイタリティ溢れる努力の人である。
今後も関西を拠点に活動を続けるが、関西演劇界に課題があるとすれば何かを問うと、「若手劇団にとってのチャンス。顔見世できる場所や企画がもっと広まっていけばいいですね。またベテランと若手が出会い、一緒に仕事のできる機会が増えるといいですね。僕自身も若い頃、上の世代の人とつながる機会が少なくて・・・。でも、一緒に仕事をする機会があると、世界が広がっていきました」。期待の若手と呼ばれ、新しい表現を追求し続けてきた大熊も、今年38歳。若手アーティストにとっての兄貴分となり、関西演劇界全体の活性化も考えつつ、新しい発想で歩み続けていく。ますます楽しみな鬼才である。

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